出光興産株式会社
代表取締役社長
社長執行役員(兼)CEO
木藤 俊一
この度2023年度を起点とする中期経営計画を策定・公表しました。当社には、燃料油、基礎化学品、高機能材、電力・再生可能エネルギー、資源の5つの事業セグメントがあります。このうち、燃料油と資源はもとより、石油・ガスを原料とする基礎化学品や電力など、大部分の事業が化石燃料に関連しています。これら関連事業の資産は当社総資産の約7割を占めます。
株主、特約販売店、お取引先、協力会社の皆さま、および従業員の中には、当社の先行きを不安視される方もおられます。2050年カーボンニュートラル時代に向けて、当社はどこに向かうのか、言い換えれば、化石燃料依存の事業構造をどのような時間軸でいかに変えていこうとしているのか、ビジョンと道筋を示してほしい、という多くの声が寄せられてきました。これらに対する、現時点での私どもの解をお示ししようと考えて策定したのが、今回の中期経営計画です。
策定に当たっては、当社の存在価値は何か、社会への提供価値は何か、からスタートさせ、次いで当社の強みは何か、どのフィールドを主戦場とするのか、という順に議論を進めていきました。
今回、当社の提供価値を「社会実装力」と定義しました。カーボンニュートラル、循環型社会の実現には、多様なパートナーとの連携が不可欠です。利害や価値観の異なる関係者を束ねていくには、北極星となる大義が必要であり、ここに国・地域社会のために考えぬき、働きぬくことを大事にする当社の存在意義があると考えています。
そのうえで、2050年ビジョンを策定しました。
2021年5月に2030年ビジョン「責任ある変革者」を策定しました。2050年カーボンニュートラルの実現には、非連続的な技術革新が必要です。一方、エネルギー供給には連続性が求められます。未来の地球環境を守ることも大事ですが、今日の人びとの暮らし、産業活動を支えるエネルギーを供給し続ける責任を放棄する訳にはいきません。
足元では、ロシアによるウクライナ軍事侵攻などを機に、エネルギーを取り巻く環境が過去に類を見ないスピードで変化し、理想と現実の狭間において化石燃料の重要性が世界的に再認識されております。だからと言って、気候変動問題への対応を後退させる訳にはいきません。「エネルギーの安定供給と気候変動問題の解決を両立させるための道筋=現実解」を示すのが当社の使命だと考えております。
私たちは、一歩先のエネルギー、
多様な省資源・資源循環ソリューション、
スマートよろずやの社会実装を通して、
を果たします。
来るべきカーボンニュートラル・循環型社会を見据え、当社は3つの事業領域「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」での社会実装を通して、「人びとの暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たしてまいります。既存の化石燃料アセットを、次の時代のエネルギーを製造・供給するインフラとして有効活用し、引き続き地域社会に貢献していくとともに、エネルギーとカーボンニュートラルソリューションのメインプレーヤーであり続けたいと考えています。
当社の先行きを心配されている多くの方は、2050年カーボンニュートラル社会の到来は、化石燃料を主体とする当社の存亡に関わる危機と捉えておられるかも知れません。
しかしながら、私はむしろ、事業構造改革の好機であり、飛躍のチャンスだと捉えています。カーボンニュートラル時代のエネルギーシステム構築には、当社が化石燃料事業を通じて培ってきた、高圧ガス・危険物の製造・取り扱い経験や拠点・インフラが不可欠だと考えているからです。
今後の技術革新、例えば発電領域においては水素・アンモニア専焼発電やCCS※付火力、輸送領域では合成燃料や第二世代バイオ燃料、産業領域では製鉄における水素還元法などを社会実装するためには、これらを製造・供給する担い手が必要です。この領域で、当社の製油所・事業所をはじめとするサプライチェーンや当社の持つ知識・経験の真価をいかんなく発揮していきたいと考えています。
多様で地球環境に優しい
カーボンニュートラルエネルギーの
安定供給
産業活動・一般消費者向けの
カーボンニュートラル
ソリューション
地域の暮らしを支える
多様なエネルギー&
モビリティ拠点
今回、設定した3つの事業領域は、現在の5つの事業セグメントを有機的に結合・再編した後の当社の将来的な事業の姿を示しています。
「一歩先のエネルギー」は、水素・アンモニア、合成燃料への転換を図る燃料油事業とブラックペレット等の低炭素ソリューションを提供する資源事業が、「多様な省資源・資源循環ソリューション」は、バイオ化学へシフトする基礎化学品と高機能材の各事業群が、さらにはパネルリサイクルにも取り組む電力・再生可能エネルギー事業が、「スマートよろずや」は、燃料油販売拠点である約6,200カ所のサービスステーションと分散型エネルギーを展開する電力・再生可能エネルギー事業が、それぞれ該当します。
カーボンニュートラルの実現と循環型経済システムの確立は一体不可分の関係にあり、それゆえ、「一歩先のエネルギー」と「多様な省資源・資源循環ソリューション」は切り離すことはできません。将来の輸送用燃料や分散型電源の供給拠点を維持するためには、サービスステーションの「スマートよろずや」化が必須です。つまり、3つの事業領域が全て揃ってはじめて、2050年ビジョン「変革をカタチに」を実現できるのです。これらを2050年に当社の主力事業としていくためには、それに備えて知見・能力を蓄積する必要があり、2030年、あるいは遅くとも2030年代前半までに多くを社会実装していかなければならないと考えております。
2030年に向けた基本方針は、現中期経営計画(2020~2022年度)の方針を継承しつつ、事業構造改革投資としてROIC経営の実践、また人的資本投資として従業員の成長・やりがいの最大化を両輪に据えています。それらを支えるビジネスプラットフォームの進化に合わせ、さまざまな施策を社会実装していき、化石燃料主体の事業ポートフォリオからの転換を進めていきます。
既存事業の資本効率化により得たキャッシュを、カーボンニュートラルへ向けた事業構造改革投資に充て、新規収益を創出することで「営業+持分損益2,700億円」を実現し、化石燃料主体の事業ポートフォリオからの転換を図っていきます。事業構造改革投資の規模は2030年までに累計1兆円を想定しています。
事業構造改革投資と両輪で進めるのが、人的資本投資です。人的資本投資は、従業員の成長・やりがいの最大化を目的に、人の成長投資を一段と推し進めます。当社には、長年変わらない経営に対する考えがあります。何物にも代えがたい経営資源は「人」という考えであり、私は、「人が中心の経営」、「人が資本」という考えを大事にしてきました。当社は創業以来「人間尊重」を経営の原点とし、利益を上げるための手段として人を育成するのではなく、事業を通じて人の成長を促すことが当社の目的としてきました。未来がどうなるか誰にも分かりませんが、どのような環境変化に対しても人が育っていれば、意志を受け継いだ社員たちが新しい時代を切り拓いていくことができます。
本中期経営計画(2023~2025年度)を着実に進める基盤として、ガバナンスの進化に向けた取締役会の機能向上および役員報酬制度の見直しを図ります。取締役会は、経営戦略等企業価値向上に資する議論を中心とした実効性のある運営に努めます。
また、役員報酬制度については、固定報酬比率を引き下げることで、業績連動性を高め、中長期的な企業価値の向上と株主と の価値共有を重視した内容への見直しを検討してまいります。
カーボンニュートラルに向けた中間目標については、従来の目標値から引き上げ、2030年時点のCO2排出量を2013年比で46パーセント削減としました。これは、事業ポートフォリオ転換とネガティブエミッションの取り組みを中心に実現します。
またScope3(サプライチェーン全体での排出量)についても、産業活動・一般消費者向けのカーボンニュートラルソリューションを提供することで、2050年カーボンニュートラルを目指します。
世界的なインフレによる資源価格の高騰や急激な円安進行などの大きな環境変化の中、当社の収益環境は比較的堅調に推移していますが、将来の脱炭素社会の到来を見据えた事業ポートフォリオの転換という意味では、燃料油事業や資源事業等の化石燃料事業に収益を依存しているのが現状です。
世界情勢の激変は収束の兆しも見えず、しかも想定を超える事態が次々と起こる中で、気を引き締めながら、絶え間ない変革と成長に向けて具体的な成果を積み上げることで、エネルギー企業としての社会的使命を果たし続けたいと考えております。
また、エネルギー事業を手がける私たちにとって、「安全の確保」と「品質保証」は枢要な課題であり、引き続き無事故への挑戦という目標を掲げ、安全・安定操業と法令順守に取り組んでいきます。
国内外でお取引いただいている全てのお客さま、事業を展開する地域の皆さま、地域に密着した特約販売店、物流や保全の協力会社、産油国をはじめとする国内外のサプライヤー等のビジネスパートナーの皆さま、そして多様なバックグラウンドを持った当社の従業員と共に、「人の力」を結集してエネルギーの転換点ともいえるこの荒波を乗り越え、新たな価値創造に挑戦してまいります。
長引くコロナ禍の中でも、常に対話を重視しながら、カーボンニュートラル・循環型社会に向けたトランジションの取り組みを通じて皆さまの期待を超えていく所存ですので、引き続き当社事業へのご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
現状※1 (2022年度見通し) |
2025年度 | 2030年度 | ||
---|---|---|---|---|
利益(在庫影響除き) | 営業+持分損益 | 1,600億円 | 1,900億円 | 2,700億円 |
当期利益 | - | 1,350億円 | - | |
資本効率性 | ROE | 7.6% | 8% | 10% |
ROIC | 4.1% | 5% | 7% | |
化石燃料事業 収益比率※2 |
95% | 70%以下 | 50%以下 |
現状 (2021年実績) |
2025年度 | 2030年度 | |||
---|---|---|---|---|---|
CO2削減量(Scope1+2)2013年比 | ▲10.6% | - | ▲46% | ||
人的資本投資 | 出光エンゲージメントインデックス※1 | 67% (2022年度実績) |
75%以上 | 80%以上 | |
D&I | 女性採用比率※2 | 23% | 50%以上 (2026年4月時点) |
50%以上 | |
女性役職者比率 | 3% | 5%以上 (2026年7月時点) |
10%以上 | ||
男性育児休業取得率 | 56% | 80%以上 (2026年3月時点) |
100% | ||
従業員一人当たり教育投資額/年 | 43千円 | 100千円以上 (国内トップクラス) |
100千円以上 (国内トップクラス) |