当社グループは、気候変動対応が地球規模で取り組むべき最重要課題の一つであると認識しており、グループが保有する資産を最大限に活用して、「緩和」と「適応」の両面から課題解決に向けた取り組みを進めています。具体的な取り組み内容は、将来発生する可能性のある事業環境をシナリオ分析により複数想定した上で、リスクと機会を洗い出し、その結果を戦略や取り組みに反映しています。
現在、コロナ禍により、当社の主力である燃料油事業は需要減少に見舞われています。2020年の世界の石油需要は、前年比マイナス9百万バレル/日の記録的な減少となりました。また、資源価格は、景気回復を企図した世界的な金融緩和策により、余剰となった金融資産の受け皿となり、変動幅が拡大しています。
一方、グローバルで脱炭素化の動きが大きく進んでいます。例えば、欧州連合(EU)は“グリーンリカバリー”として、コロナ禍からの経済復興とクリーンエネルギーへの構造転換を組み合わせた取り組みを志向しています。米国においても、政権交代によって気候変動対策への取り組み方針が大きく転換され、パリ協定に復帰するとともに、2030年時点のCO₂削減目標を、2005年比で50%~52%削減へ引き上げました。日本においても、2050年カーボンニュートラル宣言、2030年時点の削減目標引き上げ(26%→46%削減)がなされています。
化石燃料ビジネスを主体とする当社が、こうした環境変化に対し高いレジリエンスを発揮し、将来にわたってサステナブルな企業であり続けるために、本年、中期経営計画の見直しを実施しました。前回の2019年の中期経営計画策定時には、計画の前提を「虹」シナリオとしました。しかしながら、「虹」シナリオは、パリ協定の2℃目標を満たすものではありません。このため、現在の脱炭素化の潮流が世界的に著しく加速しようとしている様相を踏まえると、当社は、今回、パリ協定の2℃目標を満たす「碧天」シナリオの可能性を強く認識し、事業を行っていくことにしました。「碧天」シナリオは、世界各国が連帯して行動を開始し、足元からエネルギーシステムの構造転換が進み始めることで、今世紀末の温度上昇を2℃未満に抑えることができるシナリオです。「碧天」シナリオでは、例えば、アジア太平洋域内の化石燃料は2025年にピークアウトし、国内化石燃料需要は2019年比で、2030年に3割減、2040年に6割減、2050年に8割減と見込んでいます。
2050年に向けた長期事業環境想定に基づき、気候変動に係るリスクと機会の検討を実施し、財務への影響を把握し、下表の通り整理しました。
区分 | 評価対象 | 時間軸※1 | 対応・取り組み | ||
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短期 | 中期 | 長期 | |||
移行リスク | 脱炭素社会に向けた化石燃料需要の減少 | ● | ● | ● |
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技術革新に伴うエネルギー価格、資源価格の低下 | ● | ● |
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政府による炭素税の導入 | ● | ● |
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石炭事業に対する規制、ダイベストメントの可能性 | ● | ● |
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炭素排出の多い企業に対するブランドイメージの低下 | ● | ● |
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物理的リスク | 自然災害や海面上昇による沿岸拠点の被害、操業への影響 | ● | ● | ● |
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異常降水などによるローリー輸送、台風の頻発などによる海上輸送への影響 | ● | ● | ● |
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機会 | カーボンニュートラル社会の到来 | ● | ● | ● |
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再生可能エネルギーの需要拡大 | ● | ● | ● |
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バイオマス燃料の需要拡大 | ● | ● | ● |
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アンモニア混焼の技術進展、需要拡大 | ● | ● | ● |
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省エネルギーに貢献する製品、素材の需要拡大 | ● | ● | ● |
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電気自動車のシェア拡大、EV機、EV船の実用化 | ● | ● | ● |
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分散型エネルギーシステムの進化、需要拡大 | ● | ● | ● |
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地域社会へのエネルギー安定供給 | ● | ● | ● |
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気候変動に関するリスクについては安全環境本部と経営企画部にて総括し、経営委員会に報告しています。経営委員会の中でリスクを識別、評価し、社長を通じて同委員会から取締役会に報告される仕組みとしています。
また事業部の活動における気候関連リスクは各部室が定期的に実施している自己診断のチェックシートで把握されており、内部監査による確認と合わせて総合的なリスク管理を行っています。