イノベーションマネジメント(知的財産活動)

考え方

出光グループでは、事業部門、研究開発部門および知的財産部が連携して特許や商標などの知的財産の出願・権利化、維持管理とその活用を行い、当社グループの事業発展やブランド価値の向上に取り組んでいます。
また、他社の知的財産権の尊重や秘密情報の管理などの知的財産に関するリスクやコンプライアンスに対して、適切なプロセスの設計、運用を実施し、リスク発生の防止に努めています。

ガバナンス

知的財産活動は、知的財産部と各事業部に知財担当者を配置した体制で推進しています。これまで、知的財産部が当社グループの全事業部の知的財産活動を推進する集中型の知財活動体制を採用していましたが、事業部の知的財産戦略を加速的に実施することを目的に、2021年7月に事業部に知財担当者を配置した分散型の知財活動体制に変更しました。
知的財産部は、主にコーポレート機能を担い、当社グループを横断した知財課題への取り組み、特許情報解析による知財戦略の提案、他社との係争対応、知財リスクのマネジメント、知財人財の育成などを行っています。事業部の知財担当者は、事業部の戦略や事業特性に合わせた知財戦略を策定し、迅速かつ効率的な知的財産の取得や活用による事業展開を図っています。

※IPL:Intellectual Property Landscape(知財情報解析)

取り組み

特許出願数・保有数の実績

当社グループでは、特許を活用して競合他社と差別化し事業競争力を確保するため、強固な特許網の構築を進めています。特許出願は、各事業の市場動向に応じ国内出願はせず海外の特定国にのみ出願するなど、事業展開に合致した出願戦略に基づいて行っています。このため、2022年度は、前年に比べ国内出願(公開)数は減少しましたが、外国出願数が大きく増加しています。
事業セグメントごとの特許出願状況を見ると、技術立脚型の事業部門からなる高機能材セグメントの出願が、国内、外国ともに全体の8割以上を占めています。高機能材セグメントの事業部門では、イノベーションへの取り組みを評価する重要な指標(KPI)の一つとして特許出願数を設定しています。また、特許出願数を研究開発投資の効果測定にも活用しています。
特許保有数を見ると、グローバルな事業展開に必要な外国特許の保有数が着実に増加しています。外国特許については、事業展開国で競合他社に先行した取得を強化しています。また、海外法律事務所の弁護士との直接的な議論の場を設けるなど、海外弁護士の知識や経験を有効に活用することで、事業競争力の強化につながる知財権を確実に確保しています。

●特許出願(出願公開)数の推移・特許保有件数の推移

特許出願(出願公開)数の推移

特許出願(出願公開)数の推移

特許保有件数の推移

特許保有件数の推移

保有特許の価値

当社の保有特許の価値は、継続的な研究開発投資により向上しています。保有特許全体の価値は「1.89」と、「1」を大きく超えています。さらに、2022年度において、価値の高い特許は保有特許の半数以上を示しており、2020年度対比では2ポイント程度増加しています。

※ 特許の価値(Technology Relevance;TR):各国の特許庁の審査で引用された数(被引用数)により算出される価値(TRの平均値は「1」)。本サイトのTRデータは、LexisNexis®の特許分析ツールPatentSight® を用いて算出。TR>1の特許を価値の高い特許と定義し、保有特許に占める価値の高い特許の割合を算出。

 

●保有特許の価値および価値の高い特許の占める割合(全社)

保有特許の価値および価値の高い特許の占める割合(全社)

2022年、高機能材事業の特許は高い価値(2.20)を示しています。これらの価値の高い特許は、電子材料分野をはじめとした既存事業の収益力向上に大きく貢献しています。また、中期経営計画に掲げた高機能材セグメントの3つの注力分野(「電化・電動化ソリューション」、「バイオ・ライフソリューション」、「ICTソリューション」)の保有特許はさらに高い価値(3.60)を示しており、今後当該分野における事業競争力発揮に大きく貢献することが期待できます。当社グループは、これまで培ってきた技術の強みを発揮するとともに、技術革新を生み出すアカデミア、スタートアップとの社外連携を推進し、事業競争力の源泉となる価値ある特許の取得、特許網の構築を図ります。

●高機能材セグメント・高機能材事業注力分野の保有特許の価値(2022年)

セグメント
特許価値(TR)
対象件数
保有特許全体
1.89
5,638
うち高機能材セグメント保有特許
2.20
5,115
うち高機能材事業注力分野
3.60
1,196

知的財産活動の推進

発明の奨励(職務発明報奨)

当社では、従業員の発明意欲を高め、事業の成長につながる革新的な発明の創出を促進するため、独自の「職務発明実績報奨制度」を設け、特に事業収益に大きな貢献をした発明者を讃えています。
2022年度は、電子材料分野(7製品)、機能化学品分野(3製品)において優れた業績を収めた発明者51名が「職務発明実績報奨」の栄誉に輝きました。

特許出願・取得

今後、先進マテリアルカンパニーでのオープンイノベーションや先進マテリアルプロジェクトなどの研究成果を確実に特許出願することにより、これまでの既存事業の強化につながる発明(既存テーマ発明)の継続的な出願に加え、次期収益の柱となる新規事業の基盤技術となる発明(新規創出テーマ発明)の創出をより一層加速していきます。これにより、高機能事業セグメント分野の出願数を増やすとともに、出願に占める新規創出テーマ発明の出願割合を増大させ、既存事業、新規事業を支える特許群を強化します。
また、高機能材料セグメントの特許網の更なる強化を目的に、高機能材料セグメントの事業分野ごとに出願数、保有特許の価値を指標とする知財KPIを設定し、特許出願・取得活動を強化していきます。

特許情報解析(IPランドスケープ)活動

当社グループの価値の高い特許(技術)の解析を行い、競争優位の源泉となる技術面での強み(コア・コンピタンス)を特定しています。今後、このコア・コンピタンスを基に新たな成長領域のテーマ候補を検討、設定していきます。また、スタートアップやサプライチェーンを補強・補完できる第三者の技術や特許を検討し、新規事業の立ち上げに資するパートナーを見つける取り組みを行っています。

DX活動

知財業務の質と効率性の向上を目的としたAI活用を段階的に進めています。従来知財担当者が行っていた先行技術調査をAI活用により研究者自身が行えるように環境を整備しました。また、登録商標の調査や完成した発明の特許取得可能性判断などへのAI技術の活用について検討を開始しました。今後もAI技術を知財活動に積極的に取り入れ、変化する事業環境に適応した質の高い知的財産活動を進めていきます。

知財人財の育成

当社では知財人財の育成を重要な知財課題の一つと捉え、知財担当者の専門性、研究者の知財リテラシー向上に注力しています。
知財担当者の育成では、事業部に知財担当者を配置した分散型の知財活動体制への変更を機に、知財担当者の研修体系を見直しました。これまで知的財産部内で実施してきた研修に国内外の特許事務所による研修を追加し、階層ごとに必要な知識やスキルを得られる研修体系を構築しました。
国内特許事務所による研修は、入社1年目の知財担当者を対象に国内特許出願、特許取得手続きを実際の特許出願を題材にして行っています。国内特許事務の研修により知財担当者としての早期自立を促しています。
海外特許事務所研修は、入社10年程度の中堅社員を対象に米国および中国での1年間の研修を行い、外国特許に関する幅広く高い知識と手続きスキルの取得を図っています。
研究者の育成では、階層別(新入社員、研究開発・技術職1年目社員、中堅社員および役職者)の研修を実施し、研究者の知財リテラシーの強化を図っていきます。

研修の様子 研修の様子
研修の様子 研修の様子
研修の様子
研修の様子

これからの知的財産活動

これからの知財活動は、事業競争力の獲得において知的財産の重要性が高い事業分野に、さらに重点を置いていきます。知的財産の重要性が高い事業分野への優先的な知財リソースの投入と最大限の活用を図り、高い事業競争力を発揮するための知財戦略を推進します。また、将来の事業展開にも知財リソースを投資し、新たな成長領域への取り組みや革新的な技術開発を推進していきます。

今後の知的財産活動(イメージ)

今後の知的財産活動(イメージ)

評価

Display Week 2022 有機EL技術部門 最優秀論文(2022年5月9日)

有機EL技術部門の最優秀論文に選定されました

米国サンノゼで開催されたシンポジウム「Display Week 2022」において、蛍光型青色材料を用いた有機EL素子の世界最高レベルの発光効率と長寿化に成功した当社の新発光方式の開発成果に対し、有機EL技術部門の最優秀論文に選定されました。
※ディスプレイ関連の世界最大の学会であるSociety of Information Display が主催するシンポジウム

文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門(2022年4月8日)

文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門 受賞

文部科学大臣表彰として令和4年度科学技術賞(開発部門)を3名の社員が受賞しました。同賞は、科学技術に関する研究開発、理解増進などにおいて顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的とするものです。受賞業績は、「高効率かつ長寿命の青色有機EL発光素子の開発」です。

平成30年度全国発明表彰 恩賜発明賞(2018年5月17日)

平成30年度全国発明表彰式の様子

当社は、平成30年度全国発明表彰において、有機EL素子および有機発光媒体の発明(特許第4221050号)で「恩賜発明賞」と「発明実施功績賞」を受賞しました。
全国発明表彰は(公社)発明協会が主催する表彰制度で、日本の科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的として、日本を代表する研究者・科学者の功績を顕彰しています。日本の知的財産関係の表彰では、もっとも格式の高い表彰です。
実用化が困難だといわれていた青色発光材料の開発において、それまでの青色材料よりも、さらに色純度の高い青色を実現し、併せてディスプレイの長寿命化に大きく寄与することで、有機ELフルカラーディスプレイの実用化に大いに貢献したことが高く評価されました。

知的財産権制度活用優良企業等表彰 知財功労賞 特許庁長官表彰 (2018年4月11日)

知的財産権制度活用優良企業等表彰 知財功労賞 特許庁長官表彰の様子

当社は、知的財産権制度活用優良企業等表彰として平成30年度知財功労賞「特許庁長官表彰」を受賞しました。
知財功労賞とは、経済産業省特許庁において知的財産権制度の発展などに貢献した個人および企業などを表彰する制度です。受賞のポイントは、当社の知財活動計画の推進が高く評価されたことです。