イノベーションマネジメント(研究開発)

考え方

出光興産は、「カーボンニュートラル、循環型社会への貢献」「地域社会への貢献(エネルギー&モビリティ)」などを重要課題とし、全社の技術を結集するとともに、外部技術も活用する戦略を展開しています。

ガバナンス

当社グループの研究開発体制は次世代技術研究所と各部門の研究所から成り立ち、専門的な開発を担当しています。全社を横断する研究開発委員会も設置し、方向性や戦略の検討だけでなく、研究所間の連携を強化し、技術力を向上させています。

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戦略

当社グループは、社会の変化、顧客ニーズの多様化、環境負荷低減などを見据えた新たな事業の創出に向け、全社技術の連結化、さらに外部技術も積極的に活用し、早期実現を図る戦略を描いています。気候変動問題に関する国際的枠組みであるパリ協定の目標達成のためには、技術面でのイノベーションが不可欠です。当社グループは長年培ってきた各分野の技術開発力を活用し、気候変動をはじめとした様々な社会課題の解決に寄与するイノベーションをこれからも生み出していきます。

取り組み

研究開発投資実績

当社グループは、燃料油、高機能材、資源、さらには新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。

●2022年度の研究開発投資額実績(単位:百万円)

研究開発費 23,640
セグメント別内訳 燃料油 396
高機能材 12,703
電力・再生可能エネルギー 258
資源 368
その他 9,914

新規事業創出に向けた活動の強化

新規事業創出の鍵となる探索や調査などの研究開発初期ステージでは、自社の保有する技術や知見を活用する社内横断的な活動だけでなく、積極的に社外との連携を行うことによる、オープンイノベーションを取り組みの中心とし、事業ポートフォリオ変革に向けた新規事業創出の加速に取り組んでいます。

オープンイノベーションの推進

ベンチャーキャピタル※1の運営ファンドを活用し、国内外のスタートアップ企業との連携を進めています。例として、バイオ・ライフソリューションにおいて2023年4月にバッカス・バイオイノベーション社に出資し、スマートセル開発の取り組みを開始しました。
2020年度に東京工業大学に設置した「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」の活動を通し、東工大との先進マテリアル領域の注力分野とCNX※2ソリューション領域の技術獲得を進め、2022年度は5件の特許出願、4件の学会発表を行う成果が得られました。さらなる事業創出拡大に向け、2023年に神戸大学との共同研究部門の設立やカリフォルニア大学サンタバーバラ校などとのアカデミア連携を開始しました。

※1 ユニバーサルマテリアルズインキュベーター社(本社:日本)、Emerald Technology Ventures社(本社:スイス)、Azimuth Capital Management社(本社:カナダ)、Hatch Blue社(本社:アイルランド)
※2 CNX:カーボンニュートラルトランスフォーメーション

部門横断型取り組みによるテーマ創出

中長期的な新規事業テーマの創出活動(先進マテリアルプロジェクト)は3期目となり、のべ30名の英知を結集し活動を続けています。取り組みにより創出されたテーマは社内での検討に限らず、大学・スタートアップとの連携を含めた推進により、事業企画の具体化を行っています。これらの取り組みを通じ、継続的な共創型イノベーション人財の育成も進めています。

●新規事業創出に向けた活動

新規事業創出に向けた活動
新規事業創出に向けた活動
新規事業創出に向けた活動

MI/DXによる研究開発活動の充実

MI(マテリアルズインフォマティクス)による研究開発の加速、DX推進強化に向けた取り組みを進めています。

  • 1.

    リスキリング:全研究所を横断的に、社内取り組み事例の共有やワークショップによるリテラシー向上策、データサイエンスの実践トレーニングを実施・推進しています。

  • 2.

    DXソリューション開発:国内外コンサルティング企業との連携による、各研究開発の重点MI/DX課題の解決にむけたソリューション開発を推進しています。

  • 3.

    環境整備:MI/DXに不可欠なオープンデータベースやオープンソースソフトウエアを安全にかつ柔軟に活用可能な全社横断の専用データサイエンス・クラウド環境の整備をしています。

新規アンモニア(グリーンアンモニア)合成法の開発

アンモニアは、燃焼時にCO2を排出しないことから、石炭火力発電や船舶向けの次世代燃料として期待されています。 現在、アンモニアはハーバー・ボッシュ法(HB法)により製造されていますが、高温・高圧下で、窒素と化石燃料由来の水素を反応させるため、製造時に多くのCO2を排出します。
当社では、NEDOのプロジェクトに参画して検討を進め、東京大学の西林教授らが開発したMo触媒をもとに、開発した還元剤を用い、常温・常圧でも、窒素、水、再生可能エネルギーから連続的にアンモニアが生成することを見出しました。HB法に代わる画期的な技術確立を目指し、実用化に向けた開発を進めています。

※ NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

新規アンモニア(グリーンアンモニア)合成法の解説
新規アンモニア(グリーンアンモニア)合成法の解説
新規アンモニア(グリーンアンモニア)合成法の解説

先進マテリアルプロジェクトの発足

先進マテリアル領域での開発強化・事業拡大には、検討中のテーマを早期に事業化することに加え、新たなテーマを継続的に創出していくことが重要です。そこで、テーマ探索のためのプロジェクト活動として、2022年に「先進マテリアルプロジェクト」を開始しました。先進マテリアルカンパニー各事業部の英知を集結させ、既存事業領域にとらわれない思考によって短期間でアイデア創出から事業化企画立案、検証を繰り返すことで先進マテリアル領域における新規事業の創出につなげます。そして、このプロジェクトを通じて共創型イノベーション人財を育成することで、変革の輪を先進マテリアルカンパニー全体に広げていきます。

高速通信・デジタル技術の進展による低消費電力化への要求に応える、低コスト・低消費電力を兼ね備えた革新半導体の開発

当社は2006年より多結晶酸化物※1半導体材料IGO(Indium Gallium Oxide)の開発を始めました。当社が開発したIGOは、従来の酸化物半導体では実現できなかった低温ポリシリコン(LTPS)※2と同水準の高い移動度を有することが特長です。第8世代以上の大型ラインにおいてもプロセス適性があり、ディスプレイ性能の進化と同産業の発展、ディスプレイの低消費電力化による低炭素社会の実現に貢献することが期待されます。

※1 多結晶酸化物:金属元素と酸素から構成される多結晶状態の薄膜。
※2 低温ポリシリコン(LTPS):ガラス基板上に低温で形成された多結晶シリコン。電子移動度が高い。
※3 Poly-OS:多結晶酸化物半導体

持続可能性・アベイラビリティの高い非可食バイオマス原料からの油脂製造検討

油脂はバイオディーゼル油の原料として広く使われていますが、近年はバイオジェット燃料やバイオプラスチックの原料としても期待されています。一方で、食料用途との競合や、パームヤシのプランテーションによる熱帯雨林の破壊が問題視されています。環境負荷が低いとされる廃食油の活用が進んでいますが、その賦存量には課題があります。
そこで当社では、地球上でもっとも賦存量が多いバイオマスであるリグノセルロース原料から、微生物の力を用いて油脂を製造するプロセスの開発を進めています。世界最高水準の油脂生産量を持つ微生物を自然界から見つけ出し、さらに生産効率を高める技術開発を進めています。微生物による油脂生産を実用化することにより、環境負荷の少ない燃料原料および化学品原料の供給を目指しています。

※リグノセルロース:植物の細胞壁の主成分

太陽光発電の主力電源化の推進に向けた新技術の開発

NEDO「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発」事業において、太陽電池の設置場所拡大へ向けた新技術の開発を進めています。特に、一般の電気自動車に太陽電池を搭載するための新技術開発として、自動車形状に搭載可能で高効率・低コストを実現する太陽電池モジュールの開発を目指した取り組みを、当社を含む複数の機関が連携・協力し実施しています。この太陽電池モジュールの開発のうち、当社はCISボトムセルの技術開発を行っています。なお新技術開発は、当社のグループ会社であるソーラーフロンティア(株)の「CIS太陽電池」(銅(Copper)・インジウム(Indium)・セレン(Selenium)を材料とする化合物系の太陽電池)の技術を応用しています。