当社は「カーボンニュートラル、循環型社会への貢献」「地域社会への貢献(エネルギー&モビリティ)」などを重要課題に掲げています。社会の変化、顧客ニーズの多様化、環境負荷低減などを見据えた新たな事業の創出に向け、全社技術の連結化、さらに外部技術も積極的に活用し、早期実現を図る戦略を描いています。気候変動問題に関する国際的枠組みであるパリ協定の目標達成のためには、技術面でのイノベーションが不可欠です。当社グループは長年培ってきた各分野の技術開発力を活用し、気候変動をはじめとしたさまざまな社会課題の解決に寄与するイノベーションをこれからも生み出していきます。
当社グループの研究開発体制は、コーポレート研究を主管する「次世代技術研究所」と、各部門にひも付く研究所から構成されており、各研究所において専門的な開発を行っています。また全社横断組織として、「研究開発委員会」を設置し、全社研究開発の方向性、戦略および課題に関する事項の検討を行うだけでなく、研究所間の連携も深め、技術力の強化に努めています。
研究分野 | 研究施設名 | 国内 | 海外 | 取り組み概要 | ||
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コーポレート 研究 |
次世代技術 研究所 |
環境・エネルギー研究室 | ● | GHG削減・資源循環(バイオ燃料・バイオ化学品・CO2資源化)、バイオ素材の開発 | ||
先端有機材料研究室 | ● | 高機能材料の開発(有機高分子材料) | ||||
先端無機材料研究室 | ● | 高機能材料の開発(無機材料) | ||||
解析技術センター | ● | グループ全体の幅広い分野への高度分析・解析ソリューションの提供(計算科学を含む) | ||||
出光興産次世代材料創成協働研究拠点 | ● | 次世代材料の創出と基盤技術の強化・拡充 | ||||
生産技術 | 生産技術センター | ● | 生産設備の設計~建設~運転・品質・保全に関わる技術開発 生産プロセスの開発を通じた技術立脚型の新規事業開発支援 |
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潤滑油 | 営業研究所 | ● | 潤滑剤およびトライボロジー(潤滑に関する技術)の研究・開発 | |||
Idemitsu Lubricants America Corporation R&D Center | ● | 潤滑剤の地域密着型研究・開発 営業研究所(日本)をマザー研究所とした潤滑剤の商品・技術のグローバル展開 海外の現地ニーズに合ったスピーディーな商品開発と技術サービス提供 |
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出光潤滑油(中国)有限公司開発センター | ● | |||||
Idemitsu Lube Asia Pacific Pte. Ltd. R&D Center | ● | |||||
日本グリース(株)技術研究所 | ● | グリース、熱処理油、金属加工油等の研究・開発 | ||||
機能化学品 | 機能材料研究所 | ● | エンジニアリングプラスチック、粘接着基材、液状ゴム、電子材料などの研究開発・用途開発 触媒・合成・材料設計・コンパウンド・実用評価技術をベースとしたソリューション提供 |
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出光ユニテック(株)商品開発センター | ● | 合成樹脂加工製品の研究開発 | ||||
出光ファインコンポジット(株)複合材料研究所 | ● | 市場ニーズに対応した複合材料の研究開発 | ||||
電子材料 | 電子材料開発センター | ● | 有機EL材料の研究・開発 | |||
Idemitsu Research and Business Development Europe AG | ● | |||||
機能舗装材 | アスファルト技術課 | ● | アスファルトおよびその用途に関する基礎研究および応用研究 高機能アスファルトの開発 |
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農薬・機能性飼料 | (株)エス・ディー・エスバイオテックつくば研究所 | ● | 微生物や天然物に由来する病害虫防除剤、飼料添加物などの開発 有用動植物保護、防疫を目的とした安全で有用な製品開発 |
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リチウム電池 材料 |
材料開発センター | ● | 全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)のキーマテリアルである硫化物系固体電解質材料の開発と製造プロセス開発、量産化技術開発 | |||
生産技術開発センター | ● | 上記固体電解質材料の商業化に向けた製造技術開発および量産設備設計・建設 | ||||
技術企画室 | ● | 次世代電池材料、リサイクル技術等の技術探索・検討 | ||||
太陽光発電 | ソーラーフロンティア(株)国富事業所 | ● | 新事業開発に向けたソリューション探索 結晶シリコン系パネルを含む太陽光パネルのリサイクル事業化に向けた研究開発 |
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石炭および環境 | 石炭・環境研究所 | ● | 民間唯一の石炭専門研究 GHG削減に貢献するバイオマス燃料、カーボンリサイクル、高効率燃焼技術等、低炭素社会に対応した石炭のクリーン利用技術開発および技術サービス提供 |
当社グループは、燃料油、高機能材、資源、さらには新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。
研究開発費 | 26,016 | |
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セグメント別内訳 | 燃料油 | 785 |
高機能材 | 12,370 | |
電力・再生可能エネルギー | 1,236 | |
資源 | 316 | |
その他 | 11,308 |
当社グループの技術力は、国際的にも高い評価を得ています。その一例として、ESG評価機関のMSCI社が評価する項目の一つである「Opportunities in Clean Tech」において、当社は所属する産業サブグループ※の中で、2017年から6年連続でグローバル1位に位置しています。(下表)
今後も当社グループは高い研究開発力を最大限発揮し、他社などとの協働を通じて、地球規模での課題解決に貢献していきます。
順位 | 2020 | 2021 | 2022 |
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1 | 出光興産 | 出光興産 | 出光興産 |
2 | A社 | A社 | A社 |
3 | B社 | F社 | F社 |
4 | C社 | G社 | G社 |
5 | D社 | H社 | H社 |
先進マテリアル領域での開発強化・事業拡大あるいはコンビナートの「CNXセンター」化実現のため、社外連携を積極的に活用したオープンイノベーションを推進しています。
各研究所で個別に実施していたMI (マテリアルズインフォマティクス※)に関する活動を加速するため、技術戦略部が中心となり全社横串活動により活性化・レベルアップできるよう推進しています。
先進マテリアル領域での開発強化・事業拡大には、検討中のテーマを早期に事業化することに加え、新たなテーマを継続的に創出していくことが重要です。そこで、テーマ探索のためのプロジェクト活動として「先進マテリアルプロジェクト」を開始しました。先進マテリアルカンパニー各事業部の英知を集結させ、既存事業領域にとらわれない思考によって短期間でアイデア創出から事業化企画立案、検証を繰り返すことで先進マテリアル領域における新規事業の創出につなげます。そして、このプロジェクトを通じて共創型イノベーション人財を育成することで、変革の輪を先進マテリアルカンパニー全体に広げていきます。
当社は2006 年より多結晶酸化物※1半導体材料IGO(Indium Gallium Oxide)の開発を始めました。当社が開発したIGOは、従来の酸化物半導体では実現できなかった低温ポリシリコン(LTPS)※2と同水準の高い移動度を有することが特長です。第8世代以上の大型ラインにおいてもプロセス適性があり、ディスプレイ性能の進化と同産業の発展、ディスプレイの低消費電力化による低炭素社会の実現に貢献することが期待されます。
油脂はバイオディーゼル油の原料として広く使われていますが、近年はバイオジェット燃料やバイオプラスチックの原料としても期待されています。一方で、食料用途との競合や、パームヤシのプランテーションによる熱帯雨林の破壊が問題視されています。環境負荷が低いとされる廃食油の活用が進んでいますが、その賦存量には課題があります。
そこで当社では、地球上で最も賦存量が多いバイオマスであるリグノセルロース※原料から、微生物の力を用いて油脂を製造するプロセスの開発を進めています。世界最高水準の油脂生産量を持つ微生物を自然界から見つけ出し、さらに生産効率を高める技術開発を進めています。微生物による油脂生産を実用化することにより、環境負荷の少ない燃料原料および化学品原料の供給を目指しています。
NEDO「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発」事業において、太陽電池の設置場所拡大へ向けた新技術の開発を進めています。特に、一般の電気自動車に太陽電池を搭載するための新技術開発として、自動車形状に搭載可能で高効率・低コストを実現する太陽電池モジュールの開発を目指した取り組みを、当社を含む複数の機関が連携・協力し実施しています。この太陽電池モジュールの開発のうち、当社はCISボトムセルの技術開発を行っています。なお新技術開発は、当社の関係会社であるソーラーフロンティア(株)の「CIS太陽電池」(銅(Copper)・インジウム(Indium)・セレン(Selenium)を材料とする化合物系の太陽電池)の技術を応用しています。
当社と国立大学法人東京工業大学(以下、東工大)は次世代材料の創成を目的として、2020年4月1日に「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」(以下、「出光協働研究拠点」)を東工大すずかけ台キャンパス内に開設しました。2000年代初頭より高分子材料分野を中心に幅広い領域で共同研究に取り組み、新規繊維・フィルム材料開発をはじめとして優れた成果を上げてきました。今回新設した「出光協働研究拠点」は、これまでの個別共同研究の枠を超え、「組織」対「組織」の連携により大型で総合的な研究開発を推進し、新たな価値創造を目指した次世代材料の創成と人材育成に取り組みます。
当社と東工大は、幅広い分野で高機能材料事業(潤滑油・機能化学品・電子材料など)を展開する当社の強みと、物質・材料をはじめとする広い領域にわたり、高度な学術的知見と最先端の科学・工学技術を保有する東工大の強みを融合し、新たな価値創造に挑戦し続けます。
クラゲはその美しい姿で水族館の人気者ですが、漁業や沿岸企業の事業などに悪影響を与えることがあり、廃棄にも費用がかかるため、資源としての活用が世界的に望まれています。関係会社の(株)海月研究所(以下、海月研究所)は、クラゲを原料とした有用成分を活用する技術を発明しました。クラゲ由来コラーゲンには再生が難しいとされている表皮の再生促進効果が確認され、再生医療分野や美容分野での展開が期待されています。また、クラゲ由来ムチンは変形性膝関節症の治療薬としての可能性が期待されています。海月研究所では、化粧品、医療分野においてクラゲの活用を提案しているほか、クラゲのコラーゲンを関節の痛みを軽減する機能性食品素材にするための臨床試験も目指しています。クラゲを有効な素材として活用することで、循環型社会に貢献するとともに、ライフサイエンス分野の未来を創造し、世界の人々のQOL(Quality of Life)向上に貢献することを目指します。なお、海月研究所は、サーキュラービジネス視点の取り組みが「Circular Yokohama※」に取り上げられているほか、事業がSDGsの取り組みに合致するとして、「かながわSDGsパートナー」にも登録されています。