人的資本の価値向上(COOメッセージ)

代表取締役副社長 副社長執行役員(兼)COO 丹生谷 晋
代表取締役副社長 副社長執行役員(兼)COO 丹生谷 晋
代表取締役副社長 副社長執行役員(兼)COO 丹生谷 晋


代表取締役副社長
副社長執行役員(兼)COO
丹生谷 晋
2023年11月

●人財戦略(2022年11月公表)

当社がカーボンニュートラル時代に向けて事業構造を変革していく上で鍵となるのが、国内外の多様なステークホルダーと共にプロジェクトを推進し社会実装できる人財の発掘・育成です。こうした問題意識から、昨年公表した中期経営計画において、「企業理念・ビジョンへの共感」「D&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」という3つの視点から人財戦略を強力に推進すると申し上げました。

企業理念・ビジョンへの共感

事業構造改革という長い航海に出るに当たり、企業理念「真に働く」が羅針盤として重要な役割を担っています。2030年および2050年に到達したい姿=ビジョンを含め、これらを従業員としっかり共有化することが構造改革の出発点です。
当社では、社長をはじめとする経営層と従業員の直接対話の場として、半期に一度オンラインでタウンホールミーティングを開催しています。いまや恒例行事として定着、毎回約3千人の従業員が参加し、活発なやり取りが行われています。経営層が構造改革の必要性を強調すればする程、期待よりも不安を覚える従業員が少なくありません。文字情報や一方通行の情報提供だけで思いや真意は伝わりません。従業員に腹落ちし共感してもらうため、今後も直接かつ双方向のやり取りを、地道に継続していく所存です。
また、昨年11月に公表した中期経営計画を題材として半年かけて社長・副社長が分担して全国の事業所を訪問し意見交換を実施しました。このように、あらゆる機会を捉えて、「我々は何のために存在するのか」「どこに向かおうとしているのか」を従業員とともに考え対話する機会を作っています。これらの取り組みの結果、企業理念の認知度は99.6%、共感度は77%に達しています。

「D&Iの深化」から「DE&Iの深化」へ

新たな価値創造のためには、異なるバックグラウンドや知識・経験を持つ人々の力を結集していかなければなりません。そのためには、女性、LGBTQ+、外国籍社員、障がい者をはじめとする皆さんがマイノリティの不自由さを感じることなく、思う存分に力を発揮できる環境を整備していく必要があります。
当社ではこの一年間、集中的に女性活躍推進に取り組みました。KPIとして女性採用比率、女性役職者比率、男性育児休業取得率を設定し、2023年より役員報酬とリンクさせています。前年にパブコメを通じて広く従業員に理解を求めた男性育児休業取得率は、前年の59%から84%に向上しました。また、公正性(Equity)の観点から、各職場でマイノリティの存在である女性が、臆することなく声を発し、思う存分力量を発揮できているか、結婚・妊娠・出産・育児などのライフイベントに直面しキャリア形成に悩む女性に十分な支援ができているか、といった問題意識から女性従業員に対し役員・部室長による社内メンタリングを開始しました。同時に東京海上日動火災保険(株)と企業横断型のクロスメンタリングにも取り組みました。社長の諮問委員会で、私が委員長を務めるD&I推進委員会は、本年も全従業員に対し「D&IからDE&Iへ」「これまでの職場環境を再点検しよう」「これからの役職者像を考えよう」などの提言を行い、パブコメ方式で広く意見を集めました。委員会の提言に対し8割以上の従業員が賛同してくれていますが、委員会では少数意見に耳を傾け丁寧に対話していこうと話をしています。
なお、当社の一連の取り組みが認められ、本年3月初めて「なでしこ銘柄」に選定されました。

個々人の能力・個性の発揮

個々人の能力・個性をいかんなく発揮してもらう上で、まず従業員自身に「自分はどういうライフキャリアを描きたいか」「そのためにどのような経験・スキルが必要か」を考えてもらう必要があります。
本年9月に当社50歳以上のシニア従業員を対象に質問票調査を実施しました(回答数1,674名)。本調査においても、ライフキャリアプランを明確に描いている人はそうでない人に比べてワーク・エンゲージメントが高く、結果として会社に対するロイヤリティも高いことが確認されました。これまで、従業員が自身のライフキャリアを考える上での一助となるよう、当社の役員、部室長、次長、課長がどのように歩んできたのかをウェブ上で閲覧できる「私のキャリア」、当社の各部室・事業所はどんなことをしているのかを当該部門の担当者に直接聞くことのできる「ジョブ・フェスティバル」などを実施してきました。また、キャリアプランに悩む従業員に対しては、昨年1年で約300件のキャリアコンサルティングを提供しました。
しかし今回の調査では、人生経験が豊富なシニア層においてもライフキャリアプランが明確な人はわずか15%に留まりました。ここに大きな課題が残されていると認識しています。

今後の取り組み①:企業理念・ビジョンの共感から体現へ

企業理念に対する共感度を一段と高めながら、日々の業務遂行で企業理念を指針として実践しているかどうか、すなわち「企業理念・ビジョンの体現」という一段と高いステージへ移行したいと考えています。私たちは、今まさに社を挙げて、今日のくらしを支えるエネルギー・素材の安定供給と未来の地球環境の保全の両立という、現時点で解法が見えない、連立方程式に挑んでいます。事業活動を従業員一人ひとりの業務に分解すると、無数の連立方程式が存在するはずです。会社・社会にとって価値・意義があると思ったときに従来の枠組み、所属部門を超えて、失敗を怖れず、挑戦する従業員を一人でも多く輩出していきたいと考えています。そのため、現在、
(ア) 新たな分野に挑戦するための心的・時間的ゆとりを作るため、生産性向上30%PJの推進
(イ) 部門を超えた活動を促進するため、社内副業制度の本格展開
(ウ) 挑戦を後押しする人事制度への見直し
に取り組んでいます。活動の成果を測定するのは出光エンゲージメントインデックスであり、次頁で詳細に説明します。人事制度については他の視点も含め次項でお話しします。

今後の取り組み②:人事制度の進化

●これからの人財戦略

これからの人材戦略

本年4月に人事制度プロジェクトを発足させました。本プロジェクトは、
①失敗を怖れず挑戦する姿勢を評価し後押しする
②DE&I、特にEQUITYをより実感させる
③会社は選択肢を用意し、従業員が主体的にライフキャリアプランを描けるようにする
という3つの方針の下、検討を進めています。人事制度は、採用、異動、教育研修、評価、福祉など広範な範囲に及び、従来の制度との整合性などを求められるため、これまでは専門性を持った人事部門がクローズドで慎重に検討するのが通例でした。今回私たちは、人事制度を、事業構造改革を推進するための人財戦略を支えるインフラと位置付け、人事以外の複数の部門からもメンバーを募りPJを組成し、検討内容・経緯をオープンにする方針で運営しています。手始めに本年5月末に見直しの骨格をまとめ、全従業員にパブコメ方式で広く意見を求めました。
方針①に対応して、
(ア)新たな挑戦を会社への貢献として評価する仕組みづくり
(イ)部署間を超えて業務を遂行する際の多面的フィードバックと人事評価の連動
方針②③に対応して、
(ウ)当社における多様な役職像の明示
(エ)従業員のライフキャリアを尊重した異動配置
(オ)従業員の主体的キャリア形成を支援する専門部署設置
を、鋭意検討・準備しています。
当社は挑戦・DE&I・ライフキャリアをキーワードにした人事制度進化と生産性向上30%を土台に、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」という3つの視点から人財戦略を進めてまいります。

出光エンゲージメントインデックス

当社が国内に保有する製油所・事業所・SSネットワークなどの有形資産はカーボンニュートラルを支える社会インフラとして潜在能力を秘めています。これらの価値を顕在化させ、新技術・新用途を社会実装させるソフトの力が重要であり、とりわけプロジェクトを推進する人財の強化が課題になっています。最適なアプローチがなかなか見えないカーボンニュートラルに立ち向かっていくためには、国内外の多様なステークホルダーとの共創・協業が不可欠であり、そのために多様な価値観を包摂しながら、ビジネスを組み立て推進する力量を持った人財を一人でも多く発掘・育成していかなければなりません。こうした問題意識のもと、昨年度から新たに設定したのが、出光エンゲージメントインデックス(出光EI)です。
出光EIは、

①高い当事者意識
②当社に帰属する誇り
③自己の成長実現
④組織への貢献意欲
⑤企業理念の体現
⑥組織の垣根を超え変革に挑戦

の6つの要素で構成されています。
①~③は従業員が当社に帰属することを誇りに持ちながら、当社のフィールドで自律的かつ主体的に成長しているかどうかを測定します。一方、④~⑥は、現状取り組んでいる業務以外に組織を超えて新たな領域に挑戦しているかどうかを測定します。①~③はグループの求心力の源泉であり、後述のとおり従来から当社の強みと言えるレベルに到達していますが、多様なステークホルダーとの共創・協業を推進する人財を育成する上で、④~⑥の向上が喫緊の課題であると認識しています。特に、これらの活動のベースとなる企業理念について、出光EIでは、日々の業務遂行で指針として実践されているかどうか、というきわめて高い水準を要求しています。

出光EIの2022年度、2023年度の推移

出光EIは、2022年度は67%、2023年度は69%、と2pt改善しました。

「①高い当事者意識」「②当社に帰属する誇り」「③自己の成長実現」は引き続き当社の強みであり、昨年より一段と向上しました。この一年間、中期経営計画を題材とした全国キャラバンなど経営層と従業員の対話強化やキャリアを考える機会の提供といった活動に取り組んできた成果と考えております。
一方、「④組織への貢献意欲」「⑤企業理念の体現」「⑥組織の垣根を超え変革に挑戦」については、改善しているものの低い水準に留まっています。
時間外・休日勤務時間が一定水準に留まっている中で、有給休暇や男性育休の取得率が大きく向上しました。統合後のDTK活動や各部室における断捨離活動では約13%の生産性を向上させましたが、それが必ずしも付加価値の高い業務や新ビジネスの構想などに向かっておらず、かつそのインセンティブが乏しい、また、新たなことに挑戦するための、心的・時間的なゆとりを確保できない状況に直面しているなどが原因ではないかと考えています。
既存の業務を見直し生産性を向上させつつ、新たな領域で多様な価値観や考えを持つ企業と共創・協業し、事業構造改革を推進できる人財を着実に育成する上で鍵となるのが人財戦略です。
KPIとして設定している出光EIスコアについて、強みと言える水準目標である75%達成のためには、大胆な取り組みと推進が必要であり、トップマネジメントのコミットメントとして報酬体系とリンクさせています。事業構造改革を従業員のエンジンで推進できる基盤を作ることで、当社の新しい事業領域の創造とカーボンニュートラルへの取り組みが加速すると考えています。

※ DTK(だったらこうしよう)活動:業務フロー・働き方改革を目的に全従業員が参加したプロジェクト活動。活動期間は2019年~2021年。

●マーケット変動に左右されない事業構造への転換+カーボンニュートラル時代に向けての成長戦略

マーケット変動に左右されない事業構造への転換+カーボンニュートラル時代に向けての成長戦略

これらの課題解決に向けた人財戦略を実現することで、更なる人的資本価値向上に取り組んでまいります。

従業員の「やりがい・相互信頼・一体感」を定量的・継続的に分析し、組織の状態を把握することを目的に、統合初年度の2019年から「やりがい」調査アンケートを年に1回実施しており、出光EIも本調査より算出しています。